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人的資本経営とは? 定義・開示基準・KPI設計を徹底解説【2025年版最新ガイド】

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人的資本経営とは? 定義・開示基準・KPI設計を徹底解説【2025年版最新ガイド】

「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えていませんか。2023年度以降、有価証券報告書における人的資本開示が義務化され、上場企業の人事・サステナビリティ部門では、この新たな経営手法への対応が急務となっています。

しかし、実際に推進しようとすると「従来の人材マネジメントと何が違うのか」「どのようなKPIを設定すれば良いのか」「投資家にどう説明すれば納得してもらえるのか」といった疑問が次々と浮かんできます。

 

本記事では、人的資本経営の基本概念から具体的な推進方法まで、実務担当者が直面する課題を網羅的に解説。国際基準であるISO30414や国内外の開示ルールに準拠したKPI設計手法、さらには投資家との対話で重要となるリスキリング投資やエンゲージメント指標についても詳しくご紹介します。

 

 

目次

 

人的資本経営の基礎知識

人的資本経営を理解するためには、まず基本的な定義と開示ルールを押さえることが重要です。ここでは、国際標準規格や開示基準、従来の人材マネジメントとの違いについて詳しく見ていきましょう。

 

ISO30414と人的資本開示ルール(EDINET・SEC)

人的資本経営を理解するうえで、まず押さえておきたいのが国際的な開示基準です。ISO30414は、人的資本報告に関する国際標準規格として2018年に制定されました。この規格では、人的資本情報を11の領域に分類し、58の指標を定義しています。

 

日本においては、2023年3月期以降の有価証券報告書で、「多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針」と「当該方針に関する指標の内容及び当該指標の目標並びに実績」の記載が義務化されました。EDINETシステムを通じて提出される有価証券報告書では、これらの情報開示が求められています。

 

一方、米国のSEC(証券取引委員会)では、2021年から人的資本開示に関するガイダンスを強化しており、グローバル企業にとってはより厳格な開示基準への対応が必要となっています。

 

人的資本=知識・スキルを価値化する経営手法

人的資本経営とは、従業員が持つ知識、スキル、経験を企業の「資本」として捉え、その価値を最大化することで持続的な企業価値向上を目指す経営手法です。

 

価値を高めるためには、人材育成などへの取り組みが不可欠であり、Reskilling Campをはじめとしたリスキング、教育研修への投資といった施策の重要度は今後より高まるでしょう。

 

人事施策を従来のように「コスト」として位置付けるのではなく、将来的な売上向上や生産性改善といった形で企業価値に還元される「リターンを生み出す資本投下」として位置づけるのが人的資本経営の考え方なのです。


 

人的資本経営と従来の人材マネジメントの違い

従来の人材マネジメントと人的資本経営の最大の違いは、「測定可能性」と「投資家との対話」にあります。

 

従来のアプローチでは、研修実施回数や採用人数といった活動指標に重点が置かれていました。しかし人的資本経営では、これらの活動が実際にどの程度の価値創造につながったかを定量的に測定し、ステークホルダーに報告することが求められます。

 

また、人材育成の成果を長期的な視点で評価し、投資家や取締役会に対して説得力のあるストーリーとして説明する必要があります。例えば、「DX人材の育成投資により、3年後のデジタル売上比率を現在の20%から40%に向上させる」といった具体的な価値創造シナリオの提示が重要です。

 

人的資本経営が注目される背景

人的資本経営が注目される大きな要因の一つが、サステナビリティ経営とESG投資の急速な拡大です。ESG(環境・社会・ガバナンス)の「S(社会)」の中核を占めるのが、まさに人的資本なのです。

 

サステナビリティ経営・ESG投資の拡大

近年のESG投資の拡大により、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から企業を評価する投資家が増加しています。この中で、人的資本は「社会」の要素として重要視されており、従業員の働きがいや成長機会の提供が企業の長期的な競争力を左右する要因として認識されています。

 

実際に、MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)やFTSE Russellといった主要なESG指数において、人的資本関連の指標が評価項目に含まれており、これらの指数に組み入れられることが機関投資家からの資金流入につながる状況となっています。

 

労働人口減少とデジタルリスキリング需要

日本では2030年までに労働人口が約790万人減少すると予測されており、限られた人材でより高い付加価値を創出する必要性が高まっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、従来の業務スキルだけでは対応できない領域がさらに拡大しており、既存従業員のリスキリングが企業存続の要となっています。

 

パーソルイノベーションの調査によると、リスキリング実施率は「約4割」の傾向を維持。特に注目すべきは、トップダウン(経営主導)のアプローチが81.1%と主流となっており、目的はデジタル化・DX化推進が最も多いことです。重視されるスキルとして、AI活用(ChatGPT等)・セキュリティ・ITプロジェクトマネジメント・ビジネス構想・データ活用が上位にランクインしており、企業が求めるデジタル人材像が明確になってきています。

 

 

出典:リスキリングレポート_~リスキリングの最新風潮とDX人材育成のリアル~【2025年6月版】_12P

 

グローバル競争で求められる「人的投資ROI」

グローバル市場で競争する企業にとって、人的投資のROI(投資収益率)を明確に示すことが投資家との対話において必須となっています。特に、海外の機関投資家は人的資本の価値測定に関する洗練された評価手法を持っており、日本企業もこうした基準に対応する必要があるでしょう。

 

人的資本経営の枠組みと主要KPI

人的資本経営を実践するためには、体系的な枠組みと測定可能なKPIが必要です。ここでは、人的資本を4つの領域に分類し、それぞれの代表的なKPIとデータ収集のポイントについて解説します。

 

4つの領域:獲得・育成・エンゲージメント・リテンション

人的資本経営では、人材の価値創造プロセスを4つの領域に分けて管理します。

 

「獲得(Acquisition)」では、企業の戦略目標達成に必要な人材を適切なタイミングで確保することが重要です。単純な採用人数ではなく、重要ポジションの充足率や採用品質の向上が評価指標となります。

「育成(Development)」は、従業員のスキルや知識を向上させ、より高い付加価値を創出できる人材に成長させる領域です。特にデジタル時代においては、継続的なリスキリングやアップスキリングが企業の競争力を左右します。

「エンゲージメント(Engagement)」は、従業員が組織に対して持つ愛着や貢献意欲を測定し、向上させる取り組みです。高いエンゲージメントは生産性向上や離職率低下に直結すると言われています。

「リテンション(Retention)」では、価値の高い人材を組織内に留め、その知識やスキルを継続的に活用できる環境を整備します。特に、キーパーソンの離職防止や後継者育成が重要な課題となります。

 

代表KPI:スキルギャップ率/学習時間/eNPS/内部登用比率

具体的なKPI設定において、以下の指標が特に重要視されています。スキルギャップ率は、事業戦略上必要なスキルと現在の従業員スキルの差を数値化した指標です。例えば、「データ分析スキル保有者の目標200名に対し、現在120名(ギャップ率40%)」といった形で測定します。

 

一人当たり学習時間は、従業員の能力開発への投資度合いを示す基本的な指標です。年間40時間程度の学習時間確保を目標とする企業が多く、その内容についてもデジタルスキル、リーダーシップ、専門知識などの分野別に管理することが推奨されます。

 

eNPS(Employee Net Promoter Score)は、従業員が自社を他者に推奨する度合いを測定するエンゲージメント指標です。「あなたは友人や知人にこの会社で働くことを勧めますか」という質問に対する回答を0-10点で評価し、推奨者(9-10点)の割合から批判者(0-6点)の割合を差し引いて算出します。

 

内部登用比率は、重要ポジションに社内人材を配置する割合を示し、人材育成の成果を測る指標として活用されます。特に管理職やスペシャリストポジションにおける内部登用率の向上は、組織の人材育成力を示す重要な指標となります。

 

データ収集とダッシュボード可視化のポイント

人的資本KPIの効果的な管理には、データ収集の仕組み作りが不可欠です。HR情報システム、学習管理システム(LMS)、エンゲージメント調査ツールなどから収集されるデータを統合し、リアルタイムで可視化できるダッシュボードの構築が求められます。

 

特に重要なのは、各KPIの相関関係を分析できる仕組みです。例えば、「学習時間の増加」→「スキルレベル向上」→「生産性向上」→「従業員満足度向上」といった因果関係を数値で追跡できれば、人的投資の効果を説得力を持って説明できます。

 

また、月次・四半期・年次といった異なる時間軸でのトレンド分析や、部門別・職種別といったセグメント別の比較分析も重要な機能となります。

 

人的資本経営を推進するロードマップ

人的資本経営を成功させるためには、体系的なアプローチと段階的な実行が求められます。ここでは、3つのステップからなる実践的なロードマップを提示します。

 

Step1:マテリアリティ特定と目標設定

人的資本経営の推進において、最初に取り組むべきはマテリアリティ(重要課題)の特定です。自社の事業戦略と照らし合わせ、人的資本のどの要素が最も重要かを明確にする必要があります。

 

例えば、DXを推進する企業であれば「デジタル人材の育成」、グローバル展開を図る企業であれば「多様性とインクルージョン」、イノベーション創出を目指す企業であれば「創造性を発揮できる組織風土」といった具合に、戦略に応じた重点領域を設定します。

 

目標設定においては、定量目標と定性目標をバランス良く組み合わせることが重要です。「2027年までにデジタル人材比率を30%に向上」といった定量目標に加え、「部門を超えた協働を促進する組織文化の醸成」のような定性的な目標も設定し、多面的な評価を行います。

 

Step2:施策設計(リスキリング・D&I・働き方改革)

マテリアリティに基づいて、具体的な施策を設計します。リスキリング施策では、単発の研修ではなく、継続的な学習機会を提供する仕組みづくりが重要です。

 

特に効果的なアプローチとして注目されているのが「伴走型リスキリング」です。これは、学習者一人ひとりに専門コーチが伴走し、実務に直結するスキル習得をサポートする手法で、従来の座学中心の研修に比べて大幅に高い学習効果を実現できます。

 

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)施策では、多様な背景を持つ従業員が能力を最大限発揮できる環境整備が求められます。女性管理職比率の向上、障がい者雇用の促進、外国籍従業員の活躍支援などを通じて、組織全体のイノベーション創出力を高めることが目標となります。

 

働き方改革については、単純な労働時間短縮ではなく、従業員一人ひとりが最も生産性を発揮できる働き方を選択できる環境づくりが重要です。テレワーク、フレックスタイム、副業解禁などの制度整備に加え、成果に基づく評価制度の導入も必要となります。

 

Step3:モニタリング・開示・投資家コミュニケーション

施策実行後は、設定したKPIに基づく継続的なモニタリングが欠かせません。月次での進捗確認、四半期での効果測定、年次での戦略見直しといったPDCAサイクルを確立し、必要に応じて施策の修正を行います。

 

開示においては、法的要求事項を満たすだけでなく、自社の人的資本戦略を投資家に魅力的に伝えるストーリーテリングが重要です。数値データに加えて、具体的な取り組み事例や従業員の声を交えることで、説得力のある報告書を作成できます。

 

投資家コミュニケーションでは、人的資本投資がどのように企業価値向上につながるかを論理的に説明する必要があります。特に、リスキリング投資による生産性向上効果や、エンゲージメント向上による離職率改善効果などを定量的に示すことで、投資家の理解と支持を得られます。

 

人的資本経営を加速するツール・サービス

続いては、人的資本経営を効果的に推進するためのツールやサービスについて詳しく解説します。

 

LMS/LXPとスキル診断ツールで"人的資本ダッシュボード"を構築

効果的な人的資本経営の実現には、適切なツール選択が重要な要素となります。学習管理システム(LMS)や学習体験プラットフォーム(LXP)は、従業員の学習進捗を可視化し、スキル向上の効果を測定するために不可欠です。

 

現代のLMS/LXPは、個人の学習履歴からスキルレベルを自動判定し、不足スキルに応じた学習コンテンツを推奨する機能を備えています。これにより、従業員一人ひとりに最適化された学習体験を提供しながら、組織全体のスキルマップを構築できます。

 

スキル診断ツールとの連携により、客観的な能力評価と主観的な自己評価を組み合わせた多面的なスキル可視化が可能となります。特に、業務に直結するスキルの習得度合いを定期的に測定することで、人的投資のROIを具体的に算出できます。

 

伴走型リスキリングサービス(Reskilling Campなど)でDX人材を継続育成

単発の研修では身につけることが困難な高度なデジタルスキルについては、専門性の高い伴走型リスキリングサービスの活用が効果的です。

 

これにより、座学で得た知識を実務で活用できるレベルまで確実にスキルアップを図ることができます。

 

非IT人材をビジネスアーキテクトに育成するプログラムも用意されており、DX推進において中核となる人材を社内で育成することで、外部への依存度を下げながら、組織全体のデジタル変革を加速できるでしょう。

 

伴走型アプローチの最大の特徴は、学習者のつまずきをリアルタイムで把握し、個別にサポートできる点です。これにより、従来の研修で課題となっていた学習継続率の低さや実務活用率の低さを大幅に改善できます。



人的資本経営で企業と従業員の価値を高めよう

人的資本経営は、従業員を単なる労働力ではなく価値創造の源泉として捉え、その潜在能力を最大限に引き出すことで持続的な企業成長を実現する経営手法です。2023年以降の開示義務化により、すべての上場企業にとって避けて通れない経営課題となっています。

 

成功のポイントは、自社の事業戦略と人的資本戦略を密接に連動させ、適切なKPI設定のもとで継続的な投資と改善を行うことです。特に、リスキリング投資やエンゲージメント向上施策については、短期的なコストとして捉えるのではなく、中長期的な競争優位性の構築に向けた戦略的投資として位置づける必要があるでしょう。

 

人的資本経営の推進により、企業は優秀な人材の獲得・育成・定着を実現し、従業員は継続的な成長機会と働きがいを得ることができます。この好循環を生み出すことで、企業価値と従業員価値の同時向上という理想的な状態を実現できるのです。

 

今後ビジネス環境がますます複雑化・高度化する中で、人的資本経営は企業の持続的成長を支える重要な基盤の一つとなるはずです。今すぐ行動を開始し、自社の人的資本戦略の構築に取り組むことが、将来の競争優位性確保につながります。

 

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