DXリスキリング(デジタルリスキリング)とは?成功までのステップと事例を解説
「既存社員をDX人材に育成せよ」と突然ミッションを任されたものの、何から手を付ければ良いのか悩んでいませんか。DXの波が押し寄せる中、自社の競争力を保つには、社員のデジタルリスキリングが不可欠です。本記事ではDXリスキリングの基本から具体的なステップ、成功事例までを解説。DX推進部門・人材開発部門の担当者の方はぜひ参考にしてください。
目次
- DXリスキリング(デジタルリスキリング)とは?
- DXリスキリングが求められる背景
- 5つのDX人材とそれぞれに求められるスキル
- DXリスキリングを進めるための3ステップ
- 成功要因と失敗パターン
- デジタルリスキリングを加速するサービス・ツール
- DXリスキリングで“人と組織”をアップデートしよう
DXリスキリング(デジタルリスキリング)とは?
まず、DXリスキリングとは何かを押さえておきましょう。DX(Digital Transformation)とは単なるIT化ではなく、データとデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス・組織文化自体を変革し、競争上の優位性を確立する取り組みを指します。つまりゴールは“業務変革”であり、これを担える人材を育成するのがDXリスキリングです。
単なるスキル習得ではなく“業務変革”が目的
デジタルリスキリングは、単に社員にITスキルを覚えさせるだけではありません。DXの本質がビジネスの変革にあるように、リスキリングの目的も新たな価値創出や業務改革を実現できる人材を育てることです。
例えば、これまで紙で行っていた業務を電子化するだけではなく(それは一部のIT化に過ぎません)、顧客データ分析に基づいて新サービスを生み出すといったビジネスモデル変革につなげることがDXの目指すところです。リスキリングによって社員がこうした変革をリードできるようになることで、初めてDX推進の成果が現れます。「DX人材育成=業務変革人材の育成」と心得ましょう。
経済産業省レポートに見る「2025年の崖」と人材ギャップ
経済産業省の報告した「2025年の崖」は、DX推進が進まない場合に2025年以降、日本全体で年間最大12兆円もの経済損失が生じ得ると警鐘を鳴らした概念です。背景には、老朽化したレガシーシステムの放置や、それを支えるIT人材の不足があります。
実際、同レポートでは2025年には基幹システムの6割が導入21年以上経過し、IT人材不足が約43万人に拡大すると予測されています。この深刻な人材ギャップを埋めるためにも、既存社員のデジタルリスキリングによる戦力化が急務となっています。単に新規採用や外注に頼るだけではなく、社内人材の底上げによるDX推進が「崖」を乗り越える鍵なのです。
参考:2025年の崖とは?定義や問題点・必要な対策をわかりやすく解説 | パーソルホールディングス
リスキリングとアップスキリング・リカレント教育の違い
ここで関連する用語との違いも整理しておきます。リスキリングとは、現在の職務とは異なる新たなスキルを習得し、新しい役割や業務に適応することを指します。例えば事務職の社員がプログラミングやデータ分析を学んでDXプロジェクトに参画できるようになるのはリスキリングの典型です。
一方でアップスキリングは、今の職務に直結したスキルを深化させることを意味します。例えばエンジニアが最新のクラウド技術を習得して現在の開発業務を高度化するのはアップスキリングです。またリカレント教育(学び直し)は、大学や専門機関に再度通うなど一度職場を離れて体系的に学ぶケースを指します。
それに対してリスキリングは「仕事を続けながら継続して学ぶこと」と定義され、企業内研修やオンライン学習など現職のままスキル転換を図る点が特徴です。このように目的と手段が異なるため、自社の状況に応じてこれらを適切に使い分けることが重要です。
DXリスキリングが求められる背景
DXリスキリングが昨今これほど注目されるのには、主に三つの背景があります。自社の経営環境や社会動向を踏まえ、なぜ今リスキリングが必要なのか理解しておきましょう。
①DX加速を阻む人材不足
企業を取り巻く競争環境の激変により、単なるIT活用を超えてビジネスモデルそのものを革新するDXの重要性が一段と高まっています。ところが、DXを牽引できる高度デジタル人材は市場で争奪戦が激化し、採用コストや競合優位の観点から外部確保が容易ではありません。
このギャップを埋めて変革スピードを維持するには、既存社員をリスキリングし自社内でDX人材を育成する戦略が不可欠です。特にデータ利活用、生成AI、サイバーセキュリティ、プロジェクトマネジメントなどのスキルを持つ人材を社内教育で育成することで、DXを自社で推進する体制を構築できるでしょう。採用競争を回避しつつ人材ポートフォリオを最適化する施策として、リスキリングには高い投資対効果が期待できます。
② 労働人口減少と生成AI普及による業務再設計ニーズの増加
日本では急速な少子高齢化により生産年齢人口が減少の一途をたどっています。この人手不足時代に対応するには、一人ひとりの生産性向上が欠かせません。その切り札の一つとして普及が進むのが生成AIの業務活用です。
ChatGPTなどの生成AIは業務効率化や自動化に大きく貢献し得ますが、導入には戦略と人材の知識が必要です。現状では「使い方が検索エンジン止まりで効果を実感できない」(45%)、「業務プロセスに組み込む方法が分からない」(30.9%)などの課題が企業で指摘され、AIを使いこなすスキルが追いついていません。
そこで、社員に対する生成AIリテラシー研修や業務設計スキルのリスキリングが求められています。労働人口減でも高い生産性を維持するため、業務フローを再設計しAIと人が共働できるようにすることが急務なのです。
出典:リスキリングレポート~リスキリングによる報酬変化と生成AI(ChatGPT等)活用の最新状況~【2025年3月版】P31
③ サイバーセキュリティ・ガバナンス強化が迫られている
DXが進展すると同時に、クラウド活用やデータ利活用の拡大に伴って新たなリスクも増大しています。サイバー攻撃による情報漏洩リスクや、AI活用における倫理・ガバナンスの問題など、デジタル時代特有の課題に組織として備える必要があります。
こうしたリスクに対応するには、社員一人ひとりがセキュリティやデータガバナンスに関する知識・スキルを身に付けることが重要です。実際、先述の調査でも「セキュリティ」がリスキルしたいスキルの上位にランクインしています。例えばクラウド上でサービスを展開する際のアクセス権管理や、個人情報を扱う際の法規制遵守など、各社員が基本を理解していなければ安全なDXは実現できません。
政府も「デジタルガバナンス・コード」策定など企業におけるガバナンス強化を促しています。そのため、セキュリティ人材やデータ管理人材の育成もリスキリングの重要な背景となっています。DX推進は“攻め”の側面だけでなく“守り”の体制整備も伴うことを認識しましょう。
5つのDX人材とそれぞれに求められるスキル
では、具体的にDXを推進する人材にはどのようなタイプがあり、それぞれどんなスキルが必要なのでしょうか。一般的にDX人材は役割ごとに以下の5つに大別できます。それぞれの概要と求められるスキルセットを整理してみましょう。
ビジネスアーキテクト
DXプロジェクトの中核となるビジネス変革リーダーです。ビジネスや業務改革によって達成すべき目的を定め、関連する社内外のステークホルダーを調整・巻き込みながら、その目的実現に向けて一貫したプロセスを推進する役割を担います。
経営企画や事業開発部門の出身者がこの役割に就くことも多く、新規事業の立上げや既存事業のデジタル化など企業の成長戦略を牽引する人材です。要求されるスキルは、事業戦略策定力・プロジェクトマネジメント力・部門横断の調整力など多岐にわたります。
データサイエンティスト
データ分析の専門家で、DXの推進においてデータを活用した業務改革や新規ビジネス創出のために不可欠な存在です。具体的には、ビジネスに必要なデータを収集・加工し、統計分析や機械学習モデルによってインサイトを導き出す役割です。
そのためデータエンジニアリング、データ分析・サイエンスのスキルが必須となります。加えて、分析結果を経営層や現場に説明し活用を促すコミュニケーション力も重要です。
ソフトウェアエンジニア
デジタル製品・サービスを開発する技術者です。DX推進では、AIやIoTなど最新デジタル技術を活用したサービスや、従来手作業だった業務を自動化するシステムなどの開発・運用を担います。
必要なスキルは、プログラミング言語やクラウドプラットフォームの習熟、DevOpsなどのモダン開発手法の理解など多岐にわたります。ビジネス要件を的確にシステム仕様に落とし込む設計力も求められるでしょう。
サイバーセキュリティスペシャリスト
DXの拡大に伴い増大するサイバー攻撃・情報漏えいリスクを低減する守りの要です。デジタル環境の脆弱性診断、ゼロトラストモデルに基づくアクセス制御、クラウド・オンプレミス双方のログ監視やインシデント対応体制の構築を統括します。
IPA「デジタルスキル標準」では、システム全体のセキュリティ方針策定から運用監視、事故後のフォレンジックスまでをカバーする高度スキルが定義されています。求められるのはリスク評価と対策実装を横断的にまとめる設計力、CSIRT・SOCと連携できるコミュニケーション力、そしてNIST SP800シリーズやISO27001など国際規格への理解です。
デザイナー
デジタル製品・サービスの顧客体験を設計し価値を具体化するクリエイターです。IPA基準では、上位概念として「サービスデザイナー」「UX・UIデザイナー」などが整理されていて、ユーザー調査→コンセプト策定→プロトタイプ→評価改善の一連プロセスを牽引することが求められます。
具体スキルはデザイン思考、ジョブ理論、情報設計(IA)、プロトタイピングツール(Figma など)の操作、アクセシビリティガイドラインの適用など。DX文脈では、エンジニアやビジネスアーキテクトと協働しながら価値仮説を素早く形にし検証する能力が不可欠です。
スキルマップとコンピテンシーで可視化する方法
上記5類型のDX人材像に対して、自社社員のスキル状況を把握し育成計画を立てるには、スキルマップやコンピテンシーマトリクスの活用が有効です。まず各役割に求められるスキル項目を洗い出し、レベル定義(初級・中級・上級など)とともにマッピングします。
例えば「クラウドアーキテクト」に対しては「クラウド設計」「デジタルアーキテクチャ設計」といった項目を、「ソフトウェアエンジニア」には「アプリケーション設計」「開発・テスト」「DevOps設計」などを設定するイメージです。次に各社員について現在のスキルレベルを自己評価やテストでプロットすれば、誰にどのスキルが不足しているか一目で分かる可視化が可能です。
さらに、経済産業省が策定した「デジタルスキル標準(DX人材フレームワーク)」など既存の指標を参考にすると、漏れなく網羅的なコンピテンシー設計ができます。こうしたスキルマップを活用することで、リスキリング計画の優先順位づけ(どの部署・誰にどの研修が必要か)や、研修後の効果測定(スキルレベル向上度の確認)も容易になります。
DXリスキリングを進めるための3ステップ
効果的なDXリスキリング施策を行うには、闇雲に研修を実施するのではなく段階的なロードマップを描くことが重要です。ここでは典型的な3つのステップを紹介します。自社の状況に合わせて計画を策定する際の参考にしてください。
Step1:現状スキル診断とKPI設計
まず着手すべきは、現状の可視化とゴール設定です。具体的には社員のデジタルスキルや組織のDX成熟度を診断し、リスキリング施策のKPIを策定します。診断には、例えば日本CTO協会の「DX Criteria」(DX推進度を評価する基準)を活用したり、社内独自のチェックリストを用いたりします。
あわせて個々の社員に対してスキルアセスメント(IT基礎知識テストやプログラミング実技試験など)を実施し、能力ギャップを測定します。これらの結果に基づき、「半年で◯◯部署から○名のDX人材を創出」「一年後に××プロジェクトを自走できる人材を○人育成」といった定量・定性KPIを設定します。
ポイントは、KPIを事業目標と紐づけることです(例えば「生産リードタイムを20%短縮するためにRPAスキル習得者を◯名育成」など)。このように現状をデータで把握し、目標像を明確化することで、以降の研修計画に一貫性と説得力が生まれます。
Step2:基礎リテラシー→ハンズオン→業務プロジェクト
次に、研修カリキュラムを三つの層で設計・実施します。一層目は「基礎リテラシー研修」です。ここではDX推進に必要な共通基礎知識を習得します。具体的にはITパスポートレベルの知識、データ分析やセキュリティの基礎、生成AIリテラシーなど、職種を問わずDX人材に必須の概念を学びます。集合研修やeラーニングで座学中心に進めるケースが多いでしょう。
二層目は「ハンズオン研修」です。単なる座学に留まらず、演習やワークショップで実践的にスキルを身につける段階です。例えば、データサイエンス研修では実際のデータセットを用いて分析を行ったり、プログラミング研修では簡易なアプリケーションを開発したりします。昨今は生成AIを業務で活用するトレーニングも重視されています。
三層目は「業務プロジェクト」へのアサインです。研修で得たスキルを実際の業務課題で使ってみるフェーズで、OJT(On-the-Job Training)的な位置づけです。例えば自社の業務プロセス改善プロジェクトを一つ選び、受講者がチームとなって改善策を提案・実装する、といった取り組みです。
前述のトヨタの例では、研修後半にハッカソン形式でチームごとにアプリ開発とデモ発表を行い、成果につなげています。この段階では、受講者にテクニカルコーチやメンターが1on1で伴走し、現場適用を支援することが成功の鍵です。以上の三層カリキュラムによって、知識習得→スキル演習→実践応用という流れで学習定着度が飛躍的に高まります。
Step3:学習ログ分析とROIレポートで次期施策を高速PDCA
Step3では、研修の学習ログや成果指標を分析して関係者にレポートします。具体的には、LMS(学習管理システム)などに蓄積された受講者の学習時間・テスト結果・プロジェクト成果物などのデータを集計し、KPIへの達成度を評価します。
例えば「受講者の80%がスキル評価テストで初回比+20点向上」「研修後半年で対象部署の生産性指標が15%改善」などの形です。また、数値に表れない成長も把握するため、講師やコーチが感じた定性的な変化(主体性が向上した、など)も含めて評価します。Reskilling Campではこの際、テクニカルコーチが各受講者の理解度を評価し、「習得スキルを現場でどう活用できるか」をマネジメント層に報告する仕組みを取っています。
こうしたROI(投資対効果)レポートを経営層・現場管理職と共有することで、研修の成果が組織で認知され、次の予算確保や施策展開がスムーズになります。最後に、これらの評価結果を踏まえて次期リスキリング計画をアップデートし、PDCAサイクルを高速で回しましょう。このように継続的に施策を改善していくことで、DX人材育成の取り組みが社内に根付き、より大きな成果を生み出すようになります。
成功要因と失敗パターン
DXリスキリングを実行する上で、上手くいくケースと失敗するケースの差はどこにあるのでしょうか。ここでは、失敗例から学ぶべきポイントと、成功企業が採用する工夫を紹介します。
「学習と業務が分断」「実践機会不足」など失敗原因トップ3
出典:リスキリングレポート~リスキリングによる報酬変化と生成AI(ChatGPT等)活用の最新状況~【2025年3月版】 | P24
多くの企業が経験するリスキリング施策の失敗パターンには共通点があります。パーソルイノベーション Reskilling Campの調査によれば、企業におけるリスキリングの失敗原因トップ3は以下の通りでした。
1.「従業員任せ」で成果に繋がらなかった(38.2%)
社員の自主性に期待しすぎて、学習フォローや進捗管理を怠ったケースです。Eラーニングを提供しただけで放置すると、忙しさに追われて結局身につかないという事態に陥ります。
2.研修・学習内容が実務にマッチしていなかった(35.6%)
座学中心で現場の課題とかけ離れた内容だと、受講者は「これ何に使うの?」となりがちです。学んだ知識を活かす場面が思い浮かばない研修は定着しません。
3.会得したスキル・知識を実践する場がなかった(31.8%)
研修で学んだ後、実務に戻っても従来業務ばかりで新スキルを使う機会が無いケースです。人は使わない知識をすぐ忘れてしまいます。
上位企業が実践するピアラーニング&1on1コーチング施策
前述の失敗要因を踏まえ、リスキリング先進企業は様々な創意工夫を凝らしています。その一つが「ピアラーニング(仲間学習)」の導入です。研修をチーム制にして互いに教え合う場を設けたり、受講者コミュニティで情報交換できるようにしたりすることで、社員任せではない巻き込み型の学習を実現しています。例えば社内ハッカソンや課題解決コンペを開催し、参加者同士が競い学び合う仕組みは有効です。
また、「1on1コーチング」による手厚いフォローも成功企業の定番施策です。専門知識を持つ技術コーチが各受講者と定期的に面談し、学習上の疑問を解消したり進捗を管理したりします。同時にキャリアコーチが動機付けや学習習慣の定着を支援し、スキル面・マインド面の両方から受講者をサポートします。
現場KPIと連動させる効果測定のベストプラクティス
もう一つの成功要因は、研修の成果をきちんと「見える化」して現場と共有することです。失敗例では「学んだだけで終わり」、つまり研修効果を測らずじまいのケースも多く見られます。そこで上位企業は、現場のKPIと研修成果を紐づけて測定・報告することを徹底しています。
例えば営業部門でのDX研修なら、「提案資料作成にAIを活用した結果、1提案あたりの工数が△時間短縮」など具体的な業務KPIで効果を示します。Reskilling Campでも、テクニカルコーチの評価を交えた多角的な測定で「習得スキルを現場でどう活かせるか」まで報告し、現場マネージャーと共有しています。こうした成果の見える化により、現場の納得感が生まれリスキリングが組織文化として根付いていきます。
また、経営層に対してもROIをアピールしやすくなるため、次年度以降の予算や施策継続の後押しとなります。要は、研修と業務成果をきちんと結び付けて語れる状態を作ることが成功のベストプラクティスなのです。
デジタルリスキリングを加速するサービス・ツール
DXリスキリングを効率よく進めるには、社内の努力だけでなく支援ツールや外部サービスの活用も有効です。ここでは、代表的なプラットフォームやサービスと、その活用ポイントを解説します。
LMS/LXP
社員研修を管理・提供するためのシステムです。LMS(Learning Management System)は研修コースや受講履歴を一元管理でき、進捗やテスト結果のデータを蓄積できます。LXP(Learning eXperience Platform)は学習者の体験向上に焦点を当て、レコメンド機能やソーシャルラーニング機能を備えます。
リスキリング施策では、これらを導入することで社員は好きな時間にオンライン学習でき、人事側も効果測定データを収集できます。特に大量の受講者を抱える場合、LMS上でコンテンツを配信し、テストやアンケートを組み込むことでPDCAを回しやすくなります。
生成AI学習プラットフォーム
近年登場した、ChatGPTなど生成AIを活用した学習支援ツールです。具体例としては、質問するとAIが即座に解説してくれる社内向けQAシステムや、AIがコードのレビューやヒント提供を行うプログラミング学習環境などがあります。
これらを活用すると、社員が疑問につまずいてもAIチューターが24時間対応してくれるため学習効率が上がります。また、生成AIの使い方自体を学ぶトレーニングにもなり一石二鳥です。ただし導入時は、AIの回答精度や誤情報のリスクに注意し、あくまで補助輪として使う位置づけにしましょう。
データサンドボックス
社内外のデータを安全に持ち寄り、分析実験ができる隔離環境のことです。DXの文脈では、実データを使った分析スキル研修を行う際に、このサンドボックス環境を用意すると良いでしょう。例えばクラウド上に研修専用の分析システムを構築し、機密性の低いサンプルデータを投入しておきます。
受講者はそこで自由にSQLクエリを試したり機械学習モデルを構築したりできます。万一操作ミスやモデル暴走があっても本番システムや実データには影響しないため、安心して手を動かす学習が可能です。データサンドボックスを活用することで、机上では得られないリアルなデータ活用スキルを身につけることができます。
伴走型リスキリングサービスの活用ポイント
自社だけでDXリスキリングを企画・実施するのが難しい場合、専門の外部サービスを活用するのも賢い選択です。伴走型リスキリングサービスとは、企業ごとの状況に合わせて研修計画立案から運営・効果測定までトータルに支援してくれるサービスです。パーソルイノベーションが提供する「Reskilling Camp(リスキリングキャンプ)」もその一つです。
助成金・補助金を活用した投資最適化のコツ
DXリスキリングは中長期的な投資ですが、国や自治体の助成制度を活用することで費用負担を軽減できます。代表的なのは厚生労働省の「人材開発支援助成金」です。これは企業が従業員に職業訓練を行った場合、研修費用や研修中の賃金の一部を助成する制度です。
例えばDX人材育成を目的とした高度デジタル人材訓練では、中小企業なら研修費用の45%(大企業は30%)が助成され、さらに研修期間中の賃金も1人1時間あたり760円(大企業は380円)補助されます。年間で最大1,000万円まで受給可能なコースもあり、特に中小企業にとっては大きな支えとなるでしょう。
他にも、経済産業省系の補助金(例えばIT導入補助金の一部で教育研修ソフト導入が対象になるケース)や、自治体独自の「DXリスキリング助成金」(東京都など一部自治体が実施)もあります。これらは募集時期や条件が限られるため、常にアンテナを張って情報収集することが大切です。活用のコツは、研修計画を助成金の要件に沿って策定することです。
助成金コースごとに「研修時間◯時間以上」「訓練後に成果目標を設定すること」などの条件がありますので、申請段階から満たすよう準備しましょう。また、申請手続きや報告業務は専門知識が要るため、社労士や支援機関に相談するとスムーズです。これら公的支援を賢く利用し、限られた予算で最大の効果を上げることもDXリスキリング推進の重要な戦略です。
DXリスキリングで“人と組織”をアップデートしよう
DX時代において、人材こそが最大の資産です。デジタルリスキリングは、単に社員のITスキルを高めるだけでなく、個人のキャリアと組織の競争力を同時にアップデートするプロセスと言えます。学び続ける風土が根付いた企業は環境変化への適応力が高く、新たなビジネスチャンスも掴みやすくなります。経営層から現場まで一丸となってリスキリングに取り組み、“人”と“組織”の両方を進化させましょう。
幸い、日本でもリスキリング成功事例が各所で増えてきました。本記事で紹介したロードマップや事例、サービス活用のポイントを参考に、自社ならではのDXリスキリング計画を描いてみてください。最初は小さな一歩でも構いません。継続的な学びとチャレンジの積み重ねが、やがては自社のDX成功ストーリーを生み出すことでしょう。